【 #読んで良かったマンガ10本 2020 】不自由さを乗り越えて / 第0回・旅するタコ編

なにかと不自由な1年でした。大好きな旅行ができない、なんて生易しいものではなく、迂闊に家の外にも出られなかった2020年。

そんな引きこもり生活のなかでも、マンガを開けば現実世界とは無関係に無数の物語が広がっています。しかしよく考えてみれば、そんな物語の中にも完全な自由などほとんどありません。何かしらの不自由を抱え、それにどう反応し乗り越えていくかがマンガの醍醐味だからです。

図書館の大魔術師

今回のテーマは「#読んで良かったマンガ10本 2020」です。生まれてこの方、出会い別れ出会ってきたマンガの数々から選んだこの10本、選り抜かれた作品はそのまま選者のクセ、個性、視線…色々なものを映す鏡になるのでしょう。

『葬送のフリーレン』

エピローグから始まる物語。

魔王を倒した勇者一行の一人、フリーレンは長い寿命を持つエルフの一族。かつての仲間が息を引き取っていくなか、彼女は彼らと辿った道を再び巡ります。

自由奔放で他者に無関心にも見えるフリーレンですが、訪れた先にはいつも仲間との約束があり、思い出がありました。1000年を超す時を生きるエルフにとって、誰かと過ごした10年なんてほんの瞬きほどの時間。それでもその一瞬一瞬が、静かに、確実に彼女の生き方に沁みていく。

私たちを形作っているのは過ぎた時間の長さではなく、誰とどう出会い、行動し、別れるか。寿命という不自由さからほとんど開放された彼女にとってもそれは例外ではありません。彼女の葬送の旅が、人間が何かを遺し繋いでいく意味を紡いでくれます。

このマンガがすごい!2021』オトコ編でも第2位にも選ばれた本作。2021年がさらに飛躍の年になるのは間違いありません。

葬送のフリーレン (全3巻) Kindle版

『ダンピアのおいしい冒険』

知るってことは生きる力だから

引用元:『ダンピアのおいしい冒険』1巻より

同じ旅をテーマにした作品でも、こちらは17世紀後半、まだ見ぬ世界へと飛び出していく冒険譚。大航海時代、ヨーロッパ諸国は外へ外へと地図を広げ、無数の未知と出会いました。本作はそんな時代の終盤、海賊であり博物学者であり作家であった実在の人物ウィリアム・ダンピアを描いています。

一見夢と自由にあふれた輝かしい時代も、病気、飢餓、戦争、侵略など、その実情は数多の困難や残酷さと隣り合わせ。いつだって不自由な環境のなか、ダンピアは知ること、食べることで活路を見出していきます。

玄関の先から足を踏み出すことすら少なくなった今年も、知ることの大切さは変わりません。むしろ指先で瞬時に世界を駆けまわれるようになった今こそ、その重要性は増すばかり。ダンピアの溢れる知的好奇心が、今私たちに必要なものを改めて教えてくれます。

こちらも『このマンガがすごい!2021』オトコ編第6位、さらに『WEBマンガ総選挙2020』第4位に選ばれた話題の作品。2021年の展開が楽しみです。

ダンピアのおいしい冒険 (全2巻) Kindle版

『北北西に曇と往け』

知恵で生命が許される隙間をこじ開けないと

引用元:『北北西に雲と往け』2巻より

新しい大地が生まれる場所、アイスランド。植物も十分に育たない、生物にとっては不自由な溶岩でできた土地で、器用で不器用な御山慧(みやまけい)は生きる隙間を探すように暮らしています。

触れたモノと会話できる慧の特殊能力や弟ミチタカの不気味さなど、ファンタジーやミステリー要素を含む人間ドラマとしても魅力満載ですが、何よりもこの作品を読んで思う事は、「アイスランド、いつか絶対行く!」です。

あまりにスケールの大きな自然、吹きすさぶ風と硫黄の匂い。訪れたこともないアイスランドの空気感や流れる時間がありありと伝わってくる描写とともに、人間や生き物が持つ生きる力を否が応でも考えさせられる作品です。

あとタイトルの語感がめちゃくちゃカッコいい。

北北西に曇と往け (全4巻) Kindle版

『シャドーハウス』

地球規模の大自然とは打って変わって、閉じられた館の中で不穏さ渦巻くファンタジー『シャドーハウス』。

「シャドー」と呼ばれる顔を持たない謎の一族の少女ケイトと、シャドーに仕え彼らの表情役となる「生き人形」のエミリコ。不穏と不気味と快活とかわいさ、全てが同居する類似作品不在の本作ですが、ケイトとエミリコ、バディとも言える二人の絆の物語でもあります。

シャドーハウス

音と動きを持たないマンガ表現のなかで、表情の描写はキャラの感情を理解する最も重要な要素。それゆえ全身真っ黒なシャドーたちはその奥底を推し量ることが難しく、最初は得体のしれない怖さが漂います。しかし物語が進むにつれ不思議とそれぞれの個性が浮かび上がり、豊かな感情が伝わるようになってくるのです。

シャドーハウス

表情を持たない不自由さによって、新たな表現の可能性を手に入れる。画面越しの会話が標準となった今、何かが欠損している気がする最近のコミュニケーションへのヒントがそこに隠されているのかもしれません。

2021年にはアニメ化も決定しており、今注目度急上昇中の作品です。

TVアニメ「シャドーハウス」公式サイト

シャドーハウス (全6巻) Kindle版

『ワンダンス』

なんか「自由になれる感じがする」

引用元:『ワンダンス』1巻より

吃音症を持ち他人とのコミュニケーションが苦手だった小谷花木(カボ)。高校で一目を気にせずダンスに没頭する湾田光莉(わんだひかり)に出会い、言葉を使わないその表現に魅せられていきます。一緒に練習を続けお互いの技術と感性を高めあっていく2人はバディでありライバルであり、そしてほんの少し恋の予感も。

ワンダンス

カボの音に対するセンスの良さは、コンプレックスゆえ常に周囲に気を配ってきた生き方にも由来しています。上手く言葉を紡げない不自由さで内に抑えられていた感情が、ダンスによって全身からあふれ出す。言葉がなくても、いや言葉に頼らないからこその自由さがそこにあります。

不得意なことがあったとしても、それは自分を表現する手段が失われることを意味しません。好きなことに熱中し自分の感覚に正直になる大切さを教えてくれます。

ワンダンス (全4巻) Kindle版

『さよなら私のクラマー』

こちらも部活にかける高校生たちの熱い姿を描いた『さよなら私のクラマー』。

女子サッカー界全体が抱える問題を学生のうちから意識せざるを得ない環境。それはある意味、一度世界の頂きを見てしまったがゆえの使命感なのかもしれません。そんな女子サッカーを取り巻く不自由さをテーマに置きつつも、彼女たちはひたすらサッカーに夢中でグラウンドを走り回っています。

さよなら私のクラマー

情熱も涙も笑いもカタルシスもぎゅうぎゅうに詰まった作品ですが、ドロドロと心をかき乱されるような薄暗さはどこにもありません。サッカーが好きで、仲間が大切で、勝負に真剣で。彼女たちの行動原理は明快で、本作にはカラッとした気持ちのいい空気が流れています

さよなら私のクラマー

コマ投稿映えする印象的なコマが多いのも特徴で、普段スポーツマンガを読まない方にも迷いなくおススメできる作品です。

さよなら私のクラマー (全13巻) Kindle版

『シュレディンガーの高校生』

同じく高校生の部活をテーマにしていますが、こちらはコロナ禍を舞台にしたメタ的な短編作品。

2020年、日本中の学生が飲み込まなければならなかった不自由。どうしようもないことだと分かっていても、一生に一度しか訪れないその年に挑戦する機会すら奪われた彼ら彼女らの無念は如何ほどだったでしょうか。どこにもぶつけられないやりきれなさを、たった8頁でここまで表現できるマンガの底知れない可能性を感じます。

本作はコロナ禍の日常を舞台に100名を超えるマンガ家が参加した連載企画「MANGA Day to Day」の一つとして、『あさひなぐ』のこざき先生が描かれた作品。発表と同時に大きな反響を呼び、今年発売された『あさひなぐ』最終巻にも収録されています。

1分もあれば読めるので、ぜひ2020年の「あったかもしれない夏」のフタを開けてみてください。

あさひなぐ (全34巻) Kindle版

『鬼滅の刃』

2020年のマンガ界を振り返った時、やはりその中心にいた『鬼滅の刃』は外せません。

もはや説明不要の社会現象となった本作ですが、私たちの狂騒をよそに吾峠先生はわき目を振ることなく最終23巻まで一気に駆け抜けられた印象があります。

不老不死かつ圧倒的強者で、自ら生み出した鬼を含め誰一人信用せず心も許さない鬼舞辻無惨と、脆く弱くあっさり消えてしまう命の中で技術と想いを託していく鬼殺隊。

おそらく、鬼達が協力しあいしっかりと組織を作れば、人間は手も足も出ませんでした。しかし自らの命と強さのみに執着する彼らにはそれができない。無惨様が生きる意味は己が生きることで、誰かと、誰かに繋ぐ未来なんて無いのです。

理不尽なまでに強く自由な個と、不自由な現実を補い合いながら抵抗する集団。今や時の人となった煉獄杏寿郎の今際の名ゼリフが、この作品が持つメッセージを凝縮している気がします。

老いることも死ぬことも 人間と言う儚い生き物の美しさだ

引用元:『鬼滅の刃』8巻より
鬼滅の刃 (全23巻) Kindle版

『銀河の死なない子供たちへ』

同じ不老不死と儚い命の関係を描きながら、『鬼滅の刃』とは真逆とも言えるアプローチを取っているのが『銀河の死なない子供たちへ』。

人類が遥か昔に滅びた惑星。幼い姿のまま成長することも死ぬこともない2人、パイとマッキは、ある夜人間の赤ちゃんと出会います。ミラと名付けたその子の親代わりとして、一つの命を育てることになる2人。

何万年という時を暇をつぶすように生きてきた2人にとって、それはすぐに別れを迎えることが約束された出会いでした。それでも3人が過ごした束の間の時間が、パイ、マッキ、ミラ、それぞれの生と死に大きな影響を与えていきます。

死なないことは自由なのか。死ねないことは不自由なのか。2018年に完結した上下巻の中編作品ですが、こんな世の中の状況だからこそもう一度読み直したい作品です。

私だけが いずれこの世界から消える だから あらゆる瞬間が 私には愛おしいのだ

引用元:『銀河の死なない子供たちへ』下巻より
銀河の死なない子供たちへ (全2巻) Kindle版

『図書館の大魔術師』

書を護ること それ即ち 世界を護ること也

引用元:『図書館の大魔術師』1巻より

「書」をテーマにしたビブリオファンタジー。書とはすなわち先人の記録であり知恵であり思想。不老不死でない人間は、書を遺すことで自らの経験と学びを後世に伝えてきました。

図書館の大魔術師

本作の主人公シオ・フミスは辺境の村の貧民街に住む混血の少年ですが、生まれた環境で大方の運命が決まってしまうような世界で、彼の不自由な境遇は夢を叶えるには絶望的と言えるかもしれません。

それでもシオが諦めずに挑戦できるのは、本人の努力、周囲の協力に加えて図書館の存在。都会のような恵まれた学習環境が無くてもお金が無くても、誰もが知らないモノを知ることのできる場所があるという事実が、子どもたちの可能性を無限に広げてくれます。

図書館の大魔術師

どの登場人物も魅力的で名シーン・名セリフの宝庫の本作ですが、特にシオの師匠とも言えるガナン親方がとにかくカッコいい。

夢っつーのはな 叶っても終着(ゴール)じゃないし 破れても行き止まりじゃない 旅の途中なんだぜ 全てがな

引用元:『図書館の大魔術師』3巻より
図書館の大魔術師 (全3巻) Kindle版

不自由さを乗り越えて

かつてない不自由さを強いられた2020年。残念ながら2021年もしばらくこの状況は続きそうです。

しかし幸いなことに、私たちにはマンガがあります。部屋の中から出なくても、その表紙をめくれば、タブレットをなぞれば時空だって簡単に超えられる。そして物語の中では、登場人物たちがそれぞれの不自由さと戦っています。

力の及ばないこと、何とかできること。うまくいくこと、いかないこと。大変なことはたくさんありますが、マンガはいつだって側にあり、あなたにほんの少し勇気と知恵をくれたりします。

左ききのエレン

2021年もあなたに素敵なマンガとの出会いがありますように。

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