バガボンド

井上雄彦 / 著

バガボンドの好きなところ

『バガボンド』はとりあえず読み終わったあとに 「深いよな」 といっておけば、それっぽく聞こえる。 読後、何かを悟った気にさせてくれる感。 でも、実はそのその「何か」もこの時は分かっていない。だから、とりあえず「深い」と言って誤魔化しておく。 いつか近づけるかもしれないと、1年置き、2年置き、自分の心境の変化の度に開いてみる。 「深い」 それでも出てくる言葉は、やはりコレしかない。まだまだ近づけていない。 いや、近づく必要があるのか? そもそも、俺はどこに近づこうとしてるんだ? 言葉を付ける必要があるのか? 深い。 34巻、"小次郎"編が終わり、やっと"武蔵"が登場した。いよいよ、交わりの時かっ!と思ったら……刀を置き、鍬を持っていた。 35巻も、36巻も、"武蔵"は土を耕していた。 物語はカチカチの大地を掘り下げるようにより深く。より柔らかく。より厚みを増す。 『バガボンド』は幾度と長期休載を繰り返しているのは、少なからず耳に入れたことがあるだろう。現在も、最新刊38巻が発売された2014年以降、物語は凍結したままとなっている。 そんな休載中に読んでもらいたいのは、『空白』だ。 井上雄彦先生に密着したインタビュー本で、33巻と34巻の間の2年間の空白を埋める内容となっている。 井上雄彦先生が何を考え、なぜ描かないのか。井上雄彦先生自身の飾りのない言葉で綴られている。 僕はその中で、「最後のマンガ展」を知った。いや、正確には知ってはいた。その頃はそれどころではなかったし、ただの原画展であろうと思っていた。 ところが、「最後のマンガ展」が全く新しい内容での展示であったのを知った僕は、ここまで"武蔵"を追い続けてきたのに、どうしてその場所に行かなかったのだろうか……と後悔しかなかった。 幸いにも『いのうえの』という画集で、それを補完できることを知った。僕はさっそく手に入れ読んだ。読んだといってもほとんどが画だ。眺めたといった方が正しい。 武蔵の最期が描かれていた。 そこは優しいさに包まれてた。 井上雄彦先生は『いのうえの』の最後でこう語る。 ”「バガボンド」をずっと読んできてくれた人に、この10年の僕の紆余曲折を受け入れて、ついてきてくれた人たちに、どうしてもいい思いをさせてあげたかった。「読み続けてきて良かった」絶対にそう思ってもらいたかった。 「光」を描くために「影」を描く。” 読者とも真向から向き合ってくれている井上雄彦先生のこの心意気に、僕らは愚直に『バガボンド』の連載再開を待ち続けなければならないだろう。 そして、一度『バガボンド』の物語に足を踏み入れたた僕らは、"武蔵"の最後を必ず見届けなければならない。 僕は『バガボンド』を待ち続ける。 いや、もう"武蔵"に僕らは待たされているのかもしれない。 やはり、『バガボンド』は深い。

2019年 10月 14日

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