カメントツ先生、3人に分身?「作家」「教員」「インフルエンサー」の立場から、マンガ業界の未来を語る

「インターネットやSNSの時代に、どういった作品を描けばいいのか分からない」

しばしば漫画家さんがこぼす悩みです。スマホがあればYouTubeでいつでも映像コンテンツを観れるし、ソーシャルゲームで暇つぶしもできる。あらゆる形式のコンテンツが溢れ返り、可処分時間の奪い合いが繰り広げられるなか、「人気に火がつくマンガの条件やパターンにも変化が訪れているのではないか」と、作り手も頭を悩ませているのです。

これまで、「Web時代の漫画家の生存戦略」を探ってきた本連載。インタビューの第3弾は、「オモコロ」出身のWEB漫画家として知られ、累計発行部数が60万部を超える『こぐまのケーキ屋さん』の生みの親であるカメントツさんにお話を伺いました。

漫画家としてだけでなく、京都精華大学の教員や、Twitterで22万人以上のフォロワーを抱えるインフルエンサーとしての顔も持つカメントツさん。インタビューが始まると、突如、それぞれの役割を担う3つの人格に分身(?)してしまいました。

こちらの質問を気にかけず、どんどん勝手に話を進めてしまうカメントツさんたち。いつの間にやら、議論は「いかにマンガ業界全体を良くしていくのか」という方向へ。「そこまで言っていいの?」と思うほど、それぞれの立場からの本音が飛び交った“ソロ鼎談”の様子を、丸っとお届けします。

3人に増えてしまったカメントツ先生


ーーTwitterで10万回以上もリツイートされ、瞬く間に書籍化が決定した『こぐまのケーキ屋さん』や、オモコロで1,000万PV以上を記録した連載『カメントツのルポ漫画地獄』など、カメントツさんの作品とインターネットは切っても切り離せないと思います。

今日は、インターネットをうまく活用して漫画家活動に取り組んでこられたカメントツさんに、これからの漫画家がWEB時代をいかに攻略していけばいいのか、お伺いしたいです。


カメントツ:分かりました。じゃあ、とりあえず“分身”しますね。


ーーえっ?



カメントツ:ホァッ!!!



カメントツ×3:では、本日はよろしくお願いします。


カメントツ先生:レポートマンガとキャラクターマンガを得意とする漫画家。著作『カメントツのルポ漫画地獄』は1,000万PV以上を記録し、自身のSNSに掲載し書籍化した『こぐまのケーキ屋さん』は、累計発行部数60万部を突破。現在は、京都精華大学 新世代マンガコースの教員も務める。

カメントツ先生:レポートマンガとキャラクターマンガを得意とする漫画家。著作『カメントツのルポ漫画地獄』は1,000万PV以上を記録し、自身のSNSに掲載し書籍化した『こぐまのケーキ屋さん』は、累計発行部数60万部を突破。現在は、京都精華大学 新世代マンガコースの教員も務める。


ーーごめんなさい、意味が分からないです…。


登場人物

漫画家カメントツ:マンガを描くクリエーターとしての人格。おもしろいマンガを描くことが仕事。


教育カメントツ:教育者としての人格。京都精華大学の教員であり、生徒にマンガを描いて生きていくための方法を教えることが仕事。


SNSカメントツ:SNSを運用する人格。Twitterなどを活用し、より多くの人に作品を知ってもらうことが仕事。

SNSを利用しない漫画家は生き残るのが難しい?

まず、この時代においてSNSを利用しない漫画家は、よほどの天才でない限り、生き残っていくのは難しいでしょう。


逆に、SNSを必死に頑張れば、週刊少年ジャンプで連載するのと同じだけの読者を獲得することだって、不可能ではないと思います。SNSをやらないことは損でしかないというか、むしろ漫画家業をサボっているとさえ思いますね。


ーーすみません、勝手に話を進めないでもらっていいですか?


僕はそっちのカメントツとは違う意見で、SNSの運用などの「マンガを届ける仕事」は出版社の役割だと思っています。


だいたい、作品への否定的な意見がたくさん飛んでくるインターネットの沼に自ら飛び込むなんて、自殺行為のようなものですよ。漫画家はとにかく、良い作品をつくることに集中していればいいんです。

ーーえっと...?


たしかにSNSを利用すると、ネガティブな意見に出くわすことが多いです。SNSの運用は漫画家にとってとても大切だと思いますが、心無いコメントによって傷つけられてしまう可能性を思うと、自分の生徒たちに「SNSを頑張りなさい」とは、なかなか言えませんね。


ーー(今日の取材は絶対に面倒くさくなるやつだ…!)

出版社が作品の流通をすべて担うのは、漫画家を甘やかし過ぎ?

ーーなんで勝手に分身して、カメントツさん同士で議論を始めているんですか?


まぁ、細かいことは気にしないでくださいよ。


それに、そっちの二人のカメントツは的を射ていないです。漫画家にとって、出版社は取引先ですよ。取引先の人に、商品を流通させる仕事をすべて任せるなんて、無責任ではないですか?


そもそも、これまでの漫画家は甘やかされすぎていたんです。少しでも作品を知ってもらえる可能性があるのなら、自力で広めようとしないでどうするんですか。


たしかに、これまで漫画家が甘やかされてきたという指摘には同意です。


小説家もですが、漫画家って「先生」と表現されますよね。ミュージシャンやタレントのように、才能を活かす職業は他にもあるなかで、作家だけが先生と呼ばれている。


そして実際に呼ばれてみると、何だか本当に自分が偉い人のように思えてくるんです。「自力で作品を広めようとせずとも、誰かがやってくれるだろう」という考えが生まれてきてしまうこともある。


これはともすれば、業界にマイナスの影響を与える悪習と言えるかもしれませんね。



ちょっと待ってくださいよ、君たちは漫画家の仕事の辛さがまったく分かっていない!


どれだけ頑張って作品を描いてもヒットするか分からないし、儲けも少ない。漫画家って、本当に大変な仕事なんですよ。この上、SNSにも労力を割かなければいけないなんて、流石にやってられないですよ。


先生扱いしてもらって、漫画を描くことに集中できる環境を整えてもらうくらい、良いじゃないですか。あと、年末の謝恩会でちやほやされたりしたいです。


ーー話が脱線していませんか…?

SNSカメントツ:少なくとも売れるまでは、SNSを活用すべき

ーーカメントツさんたち、ちょっと落ち着いてください。ちゃんとそれぞれの意見を整理していので、一旦、質問を聞いてほしいです。まず、SNSカメントツさんが「漫画家はSNS運用に注力すべき」と考える理由を、詳しくお聞きできますか?



答えはシンプルで、自分でSNSを運用しないと、売れるチャンスを逃してしまうからですよ。だって、人気のない作品に、わざわざお金をかけてプロモーションすることはしないですよね。


一方、知名度のある作品はどんどんお金をかけて広めてもらえて、ますます人気になります。せめて自分で宣伝活動をしていないと、他の人気作に埋もれてしまうんですよ。


たとえば、渋谷のスクランブル交差点にあるスクリーンに、百貨店が中小メーカーの靴の広告を出すことって、考えにくいですよね。スクリーンに登場するのは、売れ線のNIKEのスニーカーなんです。でもそれって、ビジネスとしては当たり前のことですよね。


たしかに言いたいことは分かりますよ。でも、苦労を必ずしも漫画家が負担しなければいけない訳ではありませんよね。


マンガって「文化事業」的な側面があるじゃないですか。仮に万人に受けなくても、たしかな面白さが認められるマンガであれば、出版社が率先して救済すべきだと思うんです。


「SNSは不得意だけど、圧倒的に面白い作品を描く」ような漫画家が埋もれてしまうことは、業界にとっても大きな損失につながるはずです。マンガ業界の人たちは、“知る人ぞ知る名作”もプロモーションしていくべきだと思います。


うーん、分かるんだよ。どっちも分かる。


たしかに文化事業的な側面はあると思いつつ、少しでも作品をヒットさせられる可能性が上がるのなら、個人でもSNSをやらない理由にはなりませんよね。少なくとも売れるまでは、自力で積極的にSNS運用をしたほうがいいと思います。


反対に、SNSを運用してみて、マイナスになることってほとんどありません。僕の経験上、インターネットは「失敗は忘れられる場所」です。もしかしたら、カメントツがWEBでヒットを連発している作家だと思う方もいるかもしれませんが、100回中99回は失敗しています。


それに、肩肘の張ったコンテンツばかりを投稿しなくてもいいんですよ。たとえば山本崇一朗先生は、よくTwitterでフォロワーからお題を募って、ラフなイラストを載せています。あれ、ファンの立場からするとすごく嬉しくありませんか?


ーーたしかに、僕も食い入るように見ていますが、漫画家さんがSNSにイラストを投稿してくれるのはとても嬉しいですね…。


そうでしょう。ファンを喜ばせながら、宣伝活動ができるんです。それこそ、漫画家ならではの強みですよ。それを活かさないで、どうするんですか。

漫画家カメントツ:作家にとってSNSは「毒」


けれど、僕からすれば、「作品を届ける」のはやっぱり編集者や出版社の仕事だと思います。


本来、漫画家って、マンガだけ描いていたいんですよ。問題は、いいねやリツイート、リプライによって、すごく心が満たされてしまうことです。


ーー「心が満たされてしまう」とは、どういうことでしょうか?


表現が難しいんですけど、静かな水面にぽちゃんと石を投げ込むと、波紋ができるじゃないですか。この水面が作家の心だとすれば、波紋が作品になるんですよ。


でも、常にSNSをやっていると、ずっと石が投げ込まれすぎて、だんだん波紋の形も変わってきてしまうというか。


それが良い方向に進む作家さんもいるのかもしれませんが、僕の知る限りでは、多くの作家さんにとって、ネガティブな影響ばかり受けます。それが分かっているから、最初からSNSをやらない作家さんも多いですよね。


ーーたくさんのフォロワーを抱えていたのに、突然SNSを辞めちゃう人も、たまに見かけますもんね。


やっぱり、作家にとってSNSは毒ですよ。SNSを商売に使うってすごくメンタルが強くないとできないことです。一人の漫画家として声を大にして言いますが、マジでSNS運用なんてやりたくない。

読者から届くファンレターの場合、編集者さんのチェックが入り、ネガティブなものはすべて弾かれるんですよ。それが良いか悪いかはさておき、やっぱり読者さんとの接点はモチベーションの上昇にだけつながってほしい。


SNSの重要性は十分に理解しているから、この先、出版社さんが代わりにやってくれるのが最高だなと思います。


ーーなるほど。たしかに、漫画家さんが作品に集中できる環境を整えることは、漫画編集者の仕事の一つでもありますしね。

SNS運用に限らず、出版社なりの宣伝力の強化はぜひやっていただきたいところです。他にやってくれる人がいないから、仕方なく自分でSNSをやっている作家さんも少なくない。


僕が教えているデジタルネイティブの子どもたちからすると、SNSってすごく楽しい空間なんですよ。


でもそれが商売になった途端、私生活のことを呟きにくくなる。マンガ以外の発言を封殺されるって、すごく不自由で辛いことなんですよね。だからといって、裏アカをつくることも推奨できないですし。


漫画家からすれば、不本意な形で注目を浴びてしまうことは避けたいんです。作家本人がSNS運用するのは、やはりいかがなものかと思いますね。

「やしろあずき君は、そろそろプール付きの豪邸にでも住んでくれ」

僕に言わせれば、むしろ漫画家こそSNSをやるべきだと思いますけどね。それは、漫画家が積極的にSNSを活用することで、マンガ業界全体が潤っていくからです。


たとえば、やしろあずき君のSNSを見ていると、漫画家になる楽しさを包み隠さず発信してくれていて、本当に素晴らしいなと思います。例えるなら、マンガ業界のHIKAKINさんのような存在ですよね。


「漫画家で食べていくのは大変」というイメージばかり発信するのではなく、「成功すればお金持ちになれるんだよ」と一人ひとりが伝えていけば、回り回って自分に返ってくるんです。やしろ君にはそろそろ、プール付きの豪邸にでも住んでもらって、その様子をひけらかしてほしいですね。


ーーうーん、漫画家カメントツさんとSNSカメントツさん、どちらも一理ありますね…。



あとは「出版社がSNSに強くなってほしい」という話もありましたが、それこそ「SNSに強い漫画家」に相談すれば良い話です。こんな時代なのに、出版社がSNS運用について作家にアドバイスをもらうようなケースって、ほとんど聞いたことがありません。


ーーたしかに、どうしても「マンガを描ける」ことに目が行きがちですが、カメントツさんも、数十万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーですもんね。


なんで漫画家ってマンガを描く能力しかないと認識されているんだろう、と疑問に思いますね。


誤解を恐れずに言えば、マンガに関するマーケティングは、門外漢の広告代理店よりも、僕やSNSを主戦場にしているマンガ家さんの方が得意なはず。


以前、『進撃の巨人』を関西弁にする企画が大成功していたじゃないですか(※)。あれだって、文脈への理解があるオモコロ所属の漫画家・凸ノ高秀さんが担当していたからこそ当たった企画です。出版社の人たちは、フラットな視点を持ち、漫画家をアクティブな人材として使ってほしいですね。

※現在はすでに公開終了しています。気になった方は、検索してみてくださいね。

教育カメントツ:みんなで評論して、文化としてのマンガを成熟させていこう

ーーここまでの議論を聞いて、教育カメントツさんはどう思われましたか?



どちらのカメントツの言うことも、すごく理解できるんですよ。


とにかく、SNSが魂を吸い取られる環境なことは間違いないと思います。漫画家さんが炎上して苦しんでいる様子を見たりすると、「僕は生徒をブラック企業に送り込むことに加担しているのではないか」みたいな罪悪感が生まれてくることもあります。


人によってメンタルの強さやテキストコミュニケーションへの慣れ具合など、向き不向きがあるので、自分の特性を把握した上で問題なさそうなのであれば、やってもいいとは思います。


ーー何事もそうだと思いますが、苦手な人が無理して何かをやろうとしても長くは続きませんし、良い結果につながることは少ないですよね。


あとは良くも悪くも、SNSでマンガの話をするのであれば、もっと業界にポジティブな話をしてほしいですよね。マンガを後世に続く文化にしていくために、描き手だけでなく、読み手とともに成長していくことが大切です。


たとえば、マンガの評論はもっとソーシャルでされていいのではないかと思います。


その点、アルは特定のマンガを取り上げて「何が面白いのか」を解説する記事を出したり、マンガについてディスカッションするチャットをつくったりしているじゃないですか。あれは良い取り組みですよ。


ーー急に褒められてしまいました。ありがとうございます!


あんな感じで、ちゃんと読み手を育てることにお金をかけたほうがいいと思います。なぜ面白くて、どう優れているのかを、ちゃんと構造的に分析してあげることで、マンガの読み方を伝えていくべきですね。


たとえば、漫画家さんとかアシスタントさんとか、現場によって「トゲトゲ吹き出し」って呼び方が違うんですよ。「びっくり吹き出し」とか「大声吹き出し」とか。これって小説だとありえないじゃないですか。ちゃんと文法や表現に名前がついていますよね。


『こぐまのケーキ屋さん』第4集より抜粋。

『こぐまのケーキ屋さん』第4集より抜粋。


ーーこのコマで使われているような吹き出しですね。


マンガを構成する基本的な表現なのに、統一された言葉がない。それって、マンガという文化のすごく未成熟なところです。


もちろんマンガが生まれてまだ長い月日が経っていないからかもしれませんが、マンガの評論って、業界全体でお金をかけていくべきポイントの一つじゃないでしょうか。


どんな文化であれ、評論は業界の成長に大きく貢献します。それは思うままに感想を言い合うことではなく、そのマンガの構造がいかに優れているのかをしっかり分析することです。


ーーたしかに「すごい設定だ」とか「読みやすいコマ割りだ」とか、なんとなくは分かりますけど、その要因をしっかり分析して言語化されている記事や投稿って、ネットでもあまり見かけませんね。

そうなんですよ。だって、現状、業界における評価軸が一言で「このマンガがすごい!」ですからね。それに、どんなにたくさんマンガを読んでいる人でも、「この作品はアニメ化されていないから、そんなに面白くないんだろう」みたいに考えてしまうバイアスは存在していますよね。


実際は、メディアミックスしやすい作品だから、マンガ以外のフォーマットでも提供される訳で、「メディアミックスしやすい作品=面白い作品」ではない。そのマンガ自体に内包される要素を整理して、その面白さを評価できる人が増えていかなければ、文化としてのマンガは成熟していかないはずです。

漫画家にも「念系統」がある?自分に合ったスキルを伸ばそう

ーー今日は「WEB時代に漫画家の生存戦略」をお聞きしようと思っていましたが、いつの間にか「どうすればマンガ業界全体が良くなっていくか」のお話になっていましたね。カメントツさんたちのすごい勢いに、流れを持っていかれてしまった…。


さて、そろそろまとめに入っていきたいです。カメントツさんたちはそれぞれ、これからの漫画家は、何に力を入れていけば良いと思いますか?



さらっと聞いてくれますけど、それってすごく難しい質問ですよ。


なぜなら、一人ひとりの漫画家によって、伸ばしていくべきパラメーターが全然違うからです。つまり、どこに力を入れるべきかは一般化できないんですよ。


僕は漫画家のタイプを得意な領域ごとに「企画」「キャラ」「作画」「ネーム」「レゴ」と分け、「五大満力」(※)と名付けました。『HUNTER×HUNTER』の念能力6系統のようなものですね。自分はどのタイプかを把握し、伸ばすべきポイントをしっかりと伸ばすことが大切ですね。

※「五大満力」の詳細は、こちらの記事をご覧ください!


ーー言われてみればたしかに、漫画家に求められる能力って、何だか画一化されて語られがちな風潮がありますね…。あとお二人のカメントツさんは、どんな意見をお持ちでしょうか?


SNSを使った今風のマーケティングやプロモーションの大切さは認めますが、「どう売るか」ばかりに目を向けていたら、良い作品はつくれなくなります。


当たり前ですが、読者に受ける面白さとは何なのかを考え抜き、「良い作品を生み出す」という基本に忠実でいるべきだと思いますね。

マーケティングを頑張れば一定は作品の売上に貢献するでしょうが、そうしたカンフル剤がなければ成立しないのは、本来は不自然なことです。あくまで不自然なことをしている自覚は持つべきです。カンフル剤がないと成り立たない業種って、終わりに向かっているので。


ただ、事実として、「商業誌でデビューできないから漫画家になれない」という時代は、もう終わっています。


漫画家本人がやるかどうかは議論が必要かもしれませんが、多くの人に作品を読んでもらえる可能性がある以上、SNS運用は「したほうがいい」ではなく「しなければいけない」と思います。


もちろん、『ジャンプ』などのメジャーな雑誌で連載する分には、広告力もかなり大きいですし、その限りではないのかもしれませんが。


近い未来、「SNSで取り上げられない作品」は「存在しない作品」とほとんど同義になると考えています。仮に今Googleから「存在しない」と認識された作品があったとすれば、誰もその情報にたどり着けず、読まれないまま消えてしまいますよね。僕は、多くの作品や漫画家が、そのような状態に陥ってしまうことを案じているんです。

あとがき


インタビュー開始と同時に3つの人格に分身し、自分たちでトントン拍子に議論を進めていってしまったカメントツさん。分身したままの姿で取材の場を、立ち去って行きました。一体なんだったんだ…。

しかし、分身した状態だったからこそお話ししてもらえた内容も、たくさんあったと思います。複数の役割を一人でこなすカメントツさんは、相反する本音をいくつも抱えているはず。一人の人格で話してしまうと、それぞれの役割で共通する考えしか話せず、なかなか伝えたいことが伝えられない、と思っていただいたのかもしれません。

本連載でも主題の一つとしてお伝えしているように、SNSはマンガ業界に大きな変化をもたらしています。漫画家や出版社がSNSとの最適な付き合い方を模索するなか、それぞれの立場のありのままを伝えるため、カメントツさんは分身されたのでしょう。

議論を振り返ってみれば、漫画家のSNS運用に反対していた漫画家カメントツさんも、作品を知ってもらう上でのSNSの重要性は認めていました。論点としてはむしろ「漫画家本人がSNS運用をするのか、出版社などのステークホルダーが協力するのか」という、運営の主体がポイントだったように思います。

SNSカメントツさんがお話ししていた通り、漫画家本人が自らSNSを運用すれば、ファンに喜んでもらいつつ宣伝活動にもなります。それは、たしかに大きなメリットと言えるでしょう。しかし、それが最善のやり方なのかどうかは、今後も議論していく必要があるはずです。

一人のマンガファンとしては何よりも、漫画家さんがSNSによって恩恵を受けこそすれ、心に傷を受けたり、制作に悪影響が出たりするようなことは決して起こらないでほしい。SNSの普及によって起こる変化が、マンガ業界全体にとってプラスにつながっていくことを、強く願っています。

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