【 #読んで良かったマンガ10本 2020 】マンガが生活の彩り / 第7回・うなぎ編

2020年は人生で1番人と会わない1年間になった。もちろん自粛生活と、加えて個人的な環境の変化によるものだ。ワクワクする感情も、人と感情を共有する感覚も感じにくかった1年でマンガがなかったらどれだけ退屈だったろうかと思う。

チェンソーマン

「感謝だなぁ」と思いながら選んだ2020年の10作品をご紹介したい。

今回のテーマは「#読んで良かったマンガ10本 2020」です。生まれてこの方、出会い別れ出会ってきたマンガの数々から選んだこの10本、選り抜かれた作品はそのまま選者のクセ、個性、視線…色々なものを映す鏡になるのでしょう。

『バチバチ』

「命が燃えてるじゃん、、、」紙面から伝わるその熱量に圧倒されるしかなかった。それは相撲という歴史ある競技の重みがそうさせているように感じたし、作者のこのマンガへの熱もそれに加わって生み出されたものなのだと思う。

『バチバチ 』『バチバチ BURST』『鮫島、最後の十五日』と続くシリーズの中で主人公の鯉太郎は文字通り「命を削って」相撲をとり続けるのだが、それはもちろん他の力士達にも言えること。土俵の中の取組はもちろんのこと、生き様にも憧れてしまう。カッコ良すぎる人物はたくさんいるのだが、中でも兄弟子である仁王関は男の中の男ランキングに一気に食い込んでくるぐらいかっこいい。

しかし、作者の佐藤タカヒロ先生の急逝によりこの作品は未完のまま最終回を迎えており、結末を知ることは叶わない。ならばこそ、この作中のたくさんの力士達の延長線上にいる、自らの目で見ることのできる生の相撲を是非自分で見てみたいと思った。

バチバチ (全16巻) Kindle版

『チェンソーマン』

「2020年に読んだ一番衝撃的なマンガは?」と聞かれたら、真っ先に思いつくのがやはりこの作品だった。連載開始から週刊少年ジャンプ本誌で追っかけていた身としては、どんどんと読者を振り落とさんばかりの加速で終盤に向かっていく物語に、ついて行くのが必死でもあった。

「なんだこれ!!!!!」「なんだこれ、、、、、」と一話進むごとに感情を振り回され、それでも続きが気になって仕方がない。毎日家にいて曜日感覚も狂いそうな生活の中で、月曜日を強く意識して過ごせたことは本当に楽しい日々だった。

チェンソーマン

もちろん、単行本はその数週分が一冊の本となり重たい一撃を食らわせてくれる。その分初めて単行本で読む衝撃もあると言えるだろう!一気に読んでも少しずつ読んでも間違いなく面白い、2020年ド級のヒット作ではなかっただろうか。

読者の興奮冷めやらぬ中、年内で見事にその第一部が完結し、そして第二部の連載・アニメ化が決定。まだまだこの世界を楽しみ続けることができそうで、楽しみはまだまだ続く。

チェンソーマン (全10巻) Kindle版

『フェルマーの料理』

何かを夢見て、必死に努力した先にその夢が叶わず挫折してしまった時、その努力の一切は無駄だったと言えるだろうか。数学者への道を諦めた主人公が、料理の中に数学に似た法則性や再現性を見出し、一度は手放しかけたその数学を武器に料理の真理を追い求める姿に何度も心打たれた。

「夢を追うことの大変さと素晴らしさ」そして「今その夢が叶わなくてもあなたの輝く場所は他にあるかも知れない」というメッセージを感じ、グッと胸を鷲掴みにされるのだ。

美味しいものを食べて、そしてやっぱり自分のやりたいことに全力で挑戦してみようと、何度でも勇気をもらえる作品であることは間違い無い。

フェルマーの料理
フェルマーの料理 (全2巻) Kindle版

『ハイキュー!!』

2020年堂々完結。最終話を読んだ最初の感想は「感謝」だったと思う。こんなにもワクワクさせてくれる作品を読めたことにどこまでも感謝だった。

初めて横浜アリーナでバレーボールの世界大会を見たとき、あまりのスピードで選手とボールが行き交うこと、そして客席まではっきりと聞こえるボールの音に驚いた。そこにはテレビで見るのとはまた違った異次元の世界が広がっていた。そんなプレイの最中で選手達がどんなことを考え、何を積み上げあの試合を作り上げているのかをこの作品を通して知った。『ハイキュー!!』を読む前と後では、また違った楽しさを味わえるに違いない。

緻密な思考と忍耐の結実としてチームでもぎ取った1点の重みを感じることのできる大好きなエピソードがあるのだが、ちょうどTVアニメ『ハイキュー!!』のベストエピソード第1位に選ばれていたので紹介したい。(試合結果がわかるほどのネタバレはないが、ここに至るまでの道のりありきなので是非未読の方は読んでから見ていただきたい。)

2021年東京オリンピックが無事開催され、この作品の延長上のようなアツい戦いを見れることを切に願う。

ハイキュー!! (全43巻) Kindle版

『怪獣8号』

2020年7月にジャンプ+で連載を開始してから次々に閲覧数の記録を塗り替えている、今一番勢いのある新連載が『怪獣8号』です。12月に待望の第1巻が発売されましたが、帯に書いてある「ジャンプ+史上最速30,000,000閲覧数突破!!」という記録はなんと発売日当日には40,000,000閲覧数に到達しており、その勢いが伺えます。

主人公は人を救うためなら自らの危険も省みない、勇敢だが平凡な男ですが、手に入れた力は人類の脅威「怪獣」の力。見た目にはまさにどこか怖さも感じる「ダークヒーロー」とも言える風貌ですが、主人公やその仲間達の心意気は読者をアツイ気持ちにしてくれます。真っ直ぐに応援したくなるヒーローマンガを是非味わってもらいたい。

そのカッコよさが存分に味わえる公式PVがジャンプチャンネルに上がっていますので、是非チェックしてみてください。

怪獣8号 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
松本直也/著

『さよなら私のクラマー』

2011年7月17日、なでしこジャパンがサッカー女子W杯で優勝した日のことを今でもとても鮮明に覚えている。明け方まで続いた決勝戦を、家族が寝静まる中一人で起きて見ていた。準々決勝くらいからまともに見始めたTheミーハーな観客だったが、スポーツを観戦して感動した経験は人生で最初だったかも知れない。

登場人物達は、まさにあの感動に突き動かされた若きフットボーラー達だ。憧れ、次は自分があの舞台に立つのだと心を滾らせてボールを追う。倒すべき対戦相手はいる。しかし、みんな同じ道を歩む仲間達なのだ。

新川直司先生は、言葉選びと場面の切り取り方が抜群にうまい。目まぐるしく進む試合、その一番目が話せなくなる瞬間を一時停止して、そこにセリフを置いてくれる。その緩急にやられ、呼吸をすることを忘れてしまう瞬間が確かにある。

さよなら私のクラマー

惜しまれながらも最終回を迎えたが、2021年4月にはアニメ放送が予定されている。彼女達の躍動を映像で見れる日を楽しみに待ちたい。

さよなら私のクラマー (全13巻) Kindle版

『東京トイボックス』

納期ギリギリ、体力もギリギリ、そんな中で与えられた指示通りにこなした仕事が、土壇場で覆されたらどんな気分だろう。考えただけでも暗い気持ちになりそうだろうか。でもそれが、より良いモノを作る為だったらその理想の実現のため、身を削って魂を込められる人々がいる。

それがクリエイターだ。

この作品はゲームクリエイターの話だが、マンガでも映画でも文章やサービスでも自分の中の「面白い」を実現するべく日夜格闘している人たちがいる。そして生まれたモノに元気をもらい、また誰かの「面白い」の源になっていくのだろう。

東京トイボックス

自分は今本当に一番「面白い」と思ったものと向き合っているだろうか。妥協しがちな自分の人生に今一度喝を入れ、もう一歩先を目指す勇気をくれる。

東京トイボックス【デジタルリマスター版】 (全2巻) Kindle版

『BLUE GIANT SUPREME』

『BLUE GIANT』シリーズのヨーロッパ編である『BLUE GIANT SUPREME』が完結した。

日本を飛び出し、言葉も通じず、知り合いもおらず、お金もない状態で始まったヨーロッパでの日々がギュッと詰まっていた。バンドメンバーはもちろん、ライブハウスのオーナーや他の演奏者、友人など多くの人々との出会いの物語であった。それをやはり繋ぐのは主人公:大の真っ直ぐな音楽への気持ちと姿勢だった。

大の演奏はまるでマンガの中から飛び出てきてるような迫力を感じ、鳥肌が否応なしに立ってしまう。そのあまりにも音楽に対して誠実な大の姿勢は思わずこちらの背筋もピシッとさせてくれる。そしてその真っ直ぐさがヨーロッパ編の結末へとつながっていく。素晴らしいラストはシリーズを通して描かれ続けてきた大のその姿勢が成し遂げたものだ。

そして改めて「音楽の力」を感じずにはいられない。今回のヨーロッパの舞台では、国や言葉、人種、音楽のジャンルや性別などあらゆる壁を取っ払うその力強さが伝わってくる。いよいよ次章『BLUE GIANT EXPLORER』ではジャズの本場、アメリカが舞台となる。これまで以上に高くそびえるであろう壁を大の音楽がぶっ壊してく爽快感が楽しみでたまらない。

BLUE GIANT SUPREME (全11巻) Kindle版

『夏目アラタの結婚』

主人公・夏目アラタは発見されない死体の一部の手がかりを聞き出すため、連続バラバラ殺人鬼・品川真珠に結婚を申し込むことに。面会室のアクリル越しにしか会えない二人の腹の探り合いが繰り広げられドンドンと先の読めない展開になっていく。

演技力、話術、人心掌握術を使って弁護士や面会者をアクリル越しに操ろうとする真珠がとにかく怖いし、ゾッとする。その悪魔的な魅力に惹かれてしまった登場人物達もどことなく怖く思えてくる。しかし時折見せる、親から虐待を受けた経験への怯えや恋する表情を見ていると、何が真実かわからなくなってくる不思議さがあり、読者までもが真珠に騙されてしまいそうになるのだ。

殺人鬼の人生や人間性そのものを推理していくような不思議な中毒性のある物語。

夏目アラタの結婚 (全4巻) Kindle版

『犬夜叉』

少年サンデーの巨匠、高橋留美子先生のあまりにも有名な本作を今年初めて読んだ。続編アニメ『半妖の夜叉姫』が放映されると聞いたからだ。アニメ版の『犬夜叉』もみたことがなく、こんなにビッグネームにもかかわらず前情報がほとんどない状態で読むことができた。

読んで一番驚いたのは、「読みやすさ」だった。そこかい!と思うかも知れない。もちろん、物語やキャラクターに大変な魅力があるのは前提としてそのどれもにほとんどつっかえる事なくスルスルと読み進めることができた。絵、セリフ、コマ割り、心理描写など何がすごいのかはうまく説明できないのだが全56巻があっという間に読み終わってしまった。

るーみっくわーるどの一端に触れ、超王道少年マンガを堪能し、高橋先生のその確かな実力を実感できた。

犬夜叉 (全56巻) Kindle版

マンガが生活の彩り

緊急事態宣言や私生活の変化でかなり多くの時間を家で過ごした2020年。なかなか新顔のマンガを見つけることはできなかったなとは思うものの、追いかけてきた作品がいくつも完結し、そのどれもが素晴らしく、毎週のように悲喜交交だった。

マンガのおかげでただ過ぎていく毎日にならなかったことは本当に感謝したい。もちろんこの10本には入れられなかったものの「マンガ」というものを世に生み出してくれる全ての作者、その支援者の人々には心の底から尊敬の念を抱く。

兎にも角にも、マンガがサイコー!

さよならフットボール