2021年3月12日、文化庁が主催するメディア芸術祭の受賞作品が発表されました。本記事では、受賞された作者の方々のツイートと共に、マンガ部門の受賞作品と審査委員会推薦作品を一挙ご紹介します!
文化庁メディア芸術祭とは
文化庁メディア芸術祭は、毎年3月に発表されるアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバルです。
2020年度で24回目を迎えた本フェスティバルは、厳正なる審査の結果、世界103の国と地域から応募された3,693作品の中から、部門ごとに大賞、優秀賞、ソーシャル・インパクト賞、新人賞、U-18賞が選出されました。
マンガ部門大賞は将棋を題材にした物語『3月のライオン』
『3月のライオン』 ⽻海野 チカ [日本]
東京の下町・六月町に一人で暮らす桐山零は、高校生にしてプロの将棋棋士。史上5人目の中学生プロデビュー棋士として周囲からは期待が集まっていたものの、学校では孤立し、対局でも不調が続いていました。零は幼い頃に事故で両親を失っており、生活のなかでも盤上でも、深い孤独を背負っていました。
ある日、酒を飲まされ酔いつぶれていた零を川本あかりが介抱したことがきっかけとなり、川本家のあかり・ひなた・モモの3姉妹と零との関係が始まります。母を亡くし助け合いながら生きる3姉妹との日々や、ライバルとなる棋士たちとの対局、高校の教師の計らいによって入部した放課後将棋科学部(将科部)での体験を通して、零の閉ざされた心境が少しずつ変化していきます。
緊張感あふれる描写で表現された対局とともに、奥深い人間模様が零の成長を印象づけていきます。棋士たちそれぞれが抱える複雑な背景や、いつも明るい次女ひなたのいじめ問題、3姉妹の追い出しを狙って現れた父、そして零とひなたの恋愛模様などを、ドラマチックかつスリリングな物語として紡ぎながら、詩情あふれるタッチでキャラクターの心模様を繊細に描かれています。
将棋など盤上の競技は、身体的な躍動を伴わないため絵にしづらく、マンガでは対決や成長を心理的に描写する技法が厳しく問われる。本作は、心理描写に関するマンガ史上の豊かな蓄積を生かし、独自の工夫も加えて、日々を静かな闘争に生きるプロ棋士の内面のドラマを活写した。キャラクターの魅力も抜群で、闘争心と仲間意識をないまぜにした奇妙で愛すべき棋士たちの生態を、一級の群像劇に仕立てている。また、月島界隈とおぼしき墨田川の風景が時に温かく時に厳しく、主人公たちの心の動きを受け止め、盛り上げ、まるで川も芝居をするかのようだ。加えて恋愛や家族のドラマも濃密で、和菓子グルメの要素もあり、シリアスとコメディを往還しつつ盛りだくさんに描く欲張りな趣向ながら、煩雑さは皆無で、するりと心に届く。個別の技術の高さと全体のバランスを総合的に評価し、物語が大きな節目を迎えさらなる高みへ向かうこの機に、大賞をお贈りするものである。(表 智之)
平安時代から楽しまれていた歴史あるボードゲーム、「将棋」。プロ棋士たちの盤上での攻防戦には、視覚的な派手さもなく、将棋への深い理解が伴わなければ盤上の状態に一喜一憂することは難しいかもしれません。
しかし、多くの人を魅了し、今なお新しいスターを生み出し続けている将棋の世界を、特定のファンの流行とするのではなく、ストーリーや登場人物の魅力たっぷりに、大衆的な物語にしている羽海野 チカ先生の技法に、ただただ驚かされるばかりです。
連載が始まり長い時間が経った今
大事な賞をいただいたことに
嬉しさと
ここからもまた最後までコツコツと悩みながら
積み上げていく勇気をいただきました
今まで一緒に作品を創って来てくれた
アシスタントのみんな
担当さん
将棋の世界の皆様
読んで下さった皆様へ
感謝の気持ちでいっぱいです https://t.co/yBQwpA1QXg— 羽海野チカ🍀11/30ダイアリー発売 (@CHICAUMINO) March 12, 2021
アルでは、『3月のライオン』に関する記事がたくさん紹介されていますので、さまざまな視点で語られる作品の魅力を感じてください!
優秀賞 4作品
『イノサン Rouge ルージュ』 坂本 眞⼀ [日本]
激動のフランス革命を舞台に、死刑執行人のサンソン家に生まれた兄妹の生きざまを描いた作品です。王家に代々仕える正義の番人でありながら、「死神」と恐れられ、忌み嫌われる家系を継いだシャルル=アンリとマリー=ジョセフ。
王政が倒され、ギロチンによる恐怖政治の横行へと、価値観が大きく転倒するなかで、兄シャルルは家名を汚さぬよう、心を殺して処刑に臨み、妹マリーは強い意志と行動で、あらゆる既存の価値観に疑問を突き付けていきます。
実在の家系を自由な発想と現代的な感覚で描き出し、簡単には割り切れない世界のありようを伝えてくれる作品です。
『イノサンRouge』が第24回文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞を受賞!『孤高の人』に続き10年ぶり2度目の受賞、僕にとっても画業30周年となる節目の年に大きな励ましを頂きました。これからも漫画の可能性を信じ、新しい表現に取り組んでいきたいと思います。関わって頂いた全ての方に感謝です! pic.twitter.com/lVZz8MuIbk— 坂本眞一 Shin-ichi Sakamoto (@14MOUNTAIN) March 12, 2021
『かしこくて勇気ある⼦ども』 ⼭本 美希 [日本]
第⼀⼦の妊娠がわかり、これから生まれてくる我が⼦への期待に胸を膨らませる若い夫婦の物語。自分たちの⼦どもが「かしこくて勇気ある⼦ども」に育てば、その子には明るい未来が訪れるものと信じ、妊娠期間を楽しんでいました。
しかし、出産を⽬前に控えた妻は、「かしこくて勇気ある子ども」であるがゆえに、その命を脅かされるというショッキングなニュースを知ります。この事件を知った妻は動揺し、世界の子どもたちを取り巻く現実について考えを深めるようになるのです。
これから生まれてくる子どものために、自分は何をするべきなのだろうか。親しみやすいタッチで出産の喜びを描きながらも、世界の子どもたちが置かれている実情を問いかける作品となっています。
💐💐優秀賞をいただくことができました。本書にお力を貸してくださったみなさまに喜んでいただけたら何より嬉しいです💐💐#文化庁メディア芸術祭 https://t.co/67QWJ0zK8M— 山本美希 Miki Yamamoto (@MIKI_yamamoto_) March 12, 2021
詳しいあらすじや見どころはコチラの記事もご覧ください!
『ひとりでしにたい』 カレー沢 薫[日本]
元祖キャリアウーマンとして大手企業の最前線で活躍、独身貴族として悠々自適の老後を謳歌していると思っていた叔母がまさかの孤独死し、黒いシミのような状態で発見されます。衝撃を受けた山口鳴海(35歳独身)は婚活より終活にシフトします。誰にも迷惑をかけず、ひとりでよりよく死ぬためにはよりよく生きるしかないと決意します。
将来への不安と死への恐怖、誰もが持ちながらふだんあまり考えないようにしている問題に正面から切り込み、実用性の高い情報を笑いとともに提供する社会派ギャグマンガとなっています。
結婚、老後、孤独死、現在問題視されるテーマに切れ味鋭く迫り、同時に世の中の「評価」や「常識」についても問いを投げかける。迎えつつある超⾼齢化社会を照射する作品です。
祝☆第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞! [カレー沢薫祭り] 超大量無料公開!!(~3/18) - コミックDAYS-編集部ブログ- https://t.co/t2lyJo4LVs 受賞記念で私の講談社過去作が大量無料公開中です。やることが何一つない方はこれを機にどうぞ— カレー沢 薫 (@rosia29) March 14, 2021
『塀の中の美容室』⼩⽇向 まるこ/原作:桜井 美奈[日本]
⼥⼦刑務所の中にある、⼀般客を受け入れてその髪を受刑者が切る美容室の物語。取材のためにその美容室を訪れた週刊誌記者の芦原志穂は、多忙であるが故に恋人の奏に会う時間もつくれず、別れを切り出されていた。荒む心で刑務所に入る手続きを済ませ、塀の中の美容室へと向かう志穂。
そんな志穂を待っていたのは、青空の模様に彩られた美容室と、重い罪で服役しながら美容師免許を取得した、受刑者の小松原葉留だった。髪を葉留に切ってもらいながら、少ない会話を通じて自らの心が解きほぐれていくのを感じた志穂は、より葉留という人物を知ろうとします。
志穂だけでなく、刑務官や葉留の家族らの視点から、葉留という人物を描くことで、その心が少しずつ明らかになっていきます。原作となった小説をベースに、登場人物たちが持つ複雑な心情を繊細なタッチで表現し、悩みながらも前に進もうとする現代の⼥性たちの姿を、静謐かつ詩情豊かにマンガ化した作品となっています。
第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で『塀の中の美容室』(原作・桜井美奈 @Sakurai_Mina316 先生)が優秀賞を頂きました!大きな賞を頂くのは初めてです。ありがとうございます! https://t.co/XMdD4bXUdX pic.twitter.com/EDPoySoCTJ— 小日向まるこ (@MARU_CO_415) March 12, 2021
詳しいあらすじや見どころはコチラの記事もご覧ください!
ソーシャル・インパクト賞は『ゴールデンカムイ』
『ゴールデンカムイ』野⽥ サトル[日本]
明治末期、アイヌ人が隠したという金塊をめぐり、北海道、樺太、ロシアで、さまざまな男たちが暗躍するサバイバルバトルマンガ。
日露戦争の死線を潜り抜けた「不死身の杉元」の異名を持つ退役軍人・杉元は、幼馴染の目を治療するために金塊を探す過程でアイヌの少女アシㇼパと出会い、埋蔵金探しの旅をする物語です。フィクションであるものの、アイヌの文化や風習、各地の郷土料理なども丁寧に描かれています。
登場人物は個性的に造形され、テンポのよいギャグとともにエンターテインメント性も高い作品となっています。
新人賞 3作品
『スインギンドラゴンタイガーブギ』 灰⽥ ⾼鴻[日本]
ジャズ。それは戦後日本の「芸能界」のルーツ。
太平洋戦争の最中、富山が空襲された夜に、ジャズを愛する姉がベーシスト小田島龍治(おだじまたつじ)の演奏で踊る姿を見た諏訪於菟(すわおと)。
戦後、姉は入水を図り救出されるも呆けてしまい、小田島は姿を消してしまいます。女学生となった於菟は、姉のベースを背負い、姉と小田島を再会させるために上京し、姉から教わった歌唱とベースを片手に小田島を探します。その道中で偶然出会ったバンド一座に認められ、黎明期の芸能界に飛び込んだ一人の少女を主人公にした物語です。
新人なので新人賞いただけました。光栄です。何より読んで応援してくださってる皆様に対して「よかったね!」という気持ちです。 https://t.co/nX4FN0iJYW— 灰田高鴻 (@couhaida) March 12, 2021
1話はコチラからどうぞ!
『空⾶ぶくじら スズキスズヒロ作品集』 スズキ スズヒロ [日本]
作者のデビュー作から第6作までの商業媒体掲載作品をすべて収録した作品集です。進路に悩む⼥⼦⾼⽣とマイペースな⾼校教師のやりとりを描いた「⽊村先⽣」。鉄道オタクの⾼校⽣が地⽅から初上京し、ひとときの体験をする「TRAINSPOTTING」。娘の夢を叶えるために周囲の⼈々を巻き込みながら奔⾛する⼤学教授と、仕事を通してお互いを再認識する夫婦、2つの家族を描いた表題作「空⾶ぶくじら」。
いずれも、年代や性別が異なる人々が出会ったときに生まれる、⼼情や⾏動の些細な変化を描いた作品となっています。
【ご報告】「空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集」が『第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門〈新人賞〉』を受賞しました!https://t.co/OElnhqh6d7 pic.twitter.com/JegIp5LRI6— スズキスズヒロ:単行本発売中! (@suzuhirosuzuki) March 12, 2021
『マイ・ブロークン・マリコ』 平庫 ワカ [日本]
『マイ・ブロークン・マリコ』は、作者のデビュー作にして衝撃作といっても過言ではない、1巻完結の短編作品です。
口も態度も悪いOLのシイノは、昼休みに定⾷屋で親友・マリコの突然の⾃殺を知ります。マリコが両親から虐待されていた過去を知る彼女は、せめてこれから自分にできることを考え、彼女の遺⾻をマリコの実家から盗み出すことを決意します。強奪した遺⾻を抱え、シイノは最初で最後の彼女との旅に出る物語です。
詳しいあらすじや見どころはコチラの記事もご覧ください!
審査委員会推薦作品 29作品
審査委員会推薦作品では、アニメ化やCMなどで話題になった『ブルーピリオド』や、他のマンガ賞も受賞している『違国日記』、『イムリ』といった人気作品だけでなく、書籍化されていないWEBマンガや、自主制作作品なども選出されています。
作品名 | 作者※敬称略 |
『愛人 ラマン』 | 高浜 寛[日本] |
『違国日記』 | ヤマシタ トモコ[日本] |
『イムリ』 | 三宅 乱丈[日本] |
『女の園の星』 | 和山 やま[日本] |
アート・スピーゲルマン[米国] 訳:小野 耕世[日本] | |
ねむ ようこ[日本] | |
『空電の姫君』 | 冬目 景[日本] |
三本 阪奈[日本] | |
つげ 忠男[日本] | |
タカノンノ[日本] | |
『スーパーベイビー』 | 丸顔 めめ[日本] |
『世界で一番早い春』 | 川端 志季[日本] |
『船場センタービルの漫画 』(ウェブマンガ) | 町田 洋[日本] |
『千歳鬼』 | 小松 万記[日本] |
蔵西[日本] | |
『天国大魔境』 | 石黒 正数[日本] |
『トラとミケ』 | ねこまき(ミューズワーク)[日本] |
『バクちゃん』 | 増村 十七[日本] |
マンガ:鳩山 郁子[日本] 原作:堀 辰雄[日本] | |
笹生 那実[日本] | |
『風太郎不戦日記』 | マンガ:勝田 文[日本] 原作:山田 風太郎[日本] |
原作:木崎 伸也[日本] マンガ:12Log[日本] | |
『ブルーピリオド』 | 山口 つばさ[日本] |
『ベルリンうわの空』 | 香山 哲[日本] |
青木 U平[日本] | |
『水辺のできごと』 (自主制作マンガ) | megumireland[日本] |
リアド・サトゥフ[フランス] 訳:鵜野 孝紀[日本] | |
『ワンダンス』 | 珈琲[日本] |
『Veil』 | コテリ |
2020年度を締めくくる日本を代表する芸術作品を集めた、文化庁メディア芸術祭では、年間を通して受賞作品の展示・上映や、シンポジウム等の関連イベントを実施する受賞作品展が開催されています。アートとしても、文化を発信するツールとしても、日本を語るうえで欠かせないマンガジャンルで評価されている作品に是非、触れてみてください!