歴史マンガの魅力はやはり、史実を基にしているために実在の人物の思惑や、人間の欲望が詰まっているところではないでしょうか。
史実にかなり忠実な王道以外にも、フィクション要素を取り入れて世界観をつくっている歴史マンガもたくさんあります。
今回は、さまざまな切り口の歴史マンガを紹介しながら、新たに歴史マンガを描く時の参考になりそうな法則を探してみました。
軍略が凄いマンガたち
最初に紹介したいのは、軍略や戦術などが魅力的なマンガです。歴史と戦争は切り離せませんが、それらを魅力的な物語にしているものを紹介します。
一つめは王道の歴史大河マンガ『キングダム』です。
戦災孤児の信は、幼なじみの漂(ひょう)がのちの秦の始皇帝「嬴政(えいせい)」の身代わりとして殺されたことを知ります。乱世を収め平和な世をつくるため、信は政と共に天下統一に向けて動き出します。
『キングダム』は敵国の武将たちも魅力的な人物として描かれているため、どちらにも負けて欲しくない気持ちになるんですね。いい物語は敵もかっこいい。だから主人公側が勝っても辛く感じてしまうんですね。そこが物語に引き込まれる魅力の一つになっています。
好きなキャラのその後を史実から調べると、驚くほど悲劇的な最期が待っていることもあり、それがまたそのキャラへの愛着を強くします。
先に逝った先人たちの遺志を信と仲間たちが受け継ぎ、成長しながら強くなっていくのは、まさにマンガの王道です!
『キングダム』のもう一つの魅力は軍略のおもしろさです。
戦いを始める前から大将軍同士が脳内で決戦を始めており、軍を動かす前から知略を巡らせているところにも惹きつけられます。
たとえば、対趙戦では兵糧に限りがある中で、兵糧の一部が趙兵に焼かれ、あと数日で兵糧が尽き敵地に取り残されるという事態に追い込まれ、緊迫の展開にハラハラしっぱなし!国の勝敗を決する戦いをどう仕切るか。軍師たちの戦術対決も見逃せません。
もう一つ、戦術がおもしろいのは『ヒストリエ』です。
裕福な家の子だと思っていた主人公・エウメネスが、実は奴隷だったことが判明し、町の体制が変わる際に奴隷の身分に落とされます。頭脳明晰なエウメネスが自力で人生を切り拓き、行く先で出会った将軍たちに戦術を授けます。こちらもぜひ。
『ヒストリエ』はインターネットでも有名なコマが多くあります。「文化が違う」とか「ば〜〜〜っかじゃねえの!?」などです。
ネット好きな人なら見たことがある人も多いかもしれません。未読の方は是非チェックしてみてください。
王道バトルが魅力的なマンガたち
次は「王道バトル」が見ものの歴史マンガたちです。戦争や戦術とは違い、1対1の戦いが見どころのものを集めてみました。
一つ目は、佐藤健さん主演の映画も最高にかっこよかった『るろうに剣心』。これは、歴史の表には出ない暗殺者たちの活躍を描いた物語です。
必殺技を駆使したバトル展開も多く、キャラクターの背景と必殺技、ビジュアルデザインが敵も含めてかなり練り込まれてます。
登場人物の過去、性格、ビジュアル、言葉遣い、必殺技など、キャラづくりの参考になる要素がたくさんなので、ぜひ読み返してみてください!
次に、戦いの美しさを描いているのが最強の剣士・宮本武蔵を主人公にした『バガボンド』。
剛直な武蔵と天真爛漫な佐々木小次郎という、対象的な二人を軸にしたヒューマンドラマです。
土の匂いがするような画面も素晴らしく、命を賭けた戦いに挑む際の精神性や、人の命を奪うことの業も描かれていて、バトルというよりは哲学書のような趣のある作品です。
大きなフィクションを入れる歴史マンガ
次は、本格的な歴史マンガでありながら、「もしこうだったら・・・」というのを交えて描かれたマンガです。
1つめは、史実や大奥のしきたりにかなり忠実に描かれていながら、男女逆転という設定を取り入れた話題作が『大奥』。
男女逆転という一つの嘘をついて、他はすべて史実どおりに書こうとした結果、素晴らしい歴史SFになっています。
人口比として男性が少ないからこその「男に種付けしてもらう」文化や、女性が男の名で家督を継ぐ習慣などがあり、男女逆転の設定が自然に物語に溶け込んでいるのがすごいです。江戸時代は本当に男性が少なかったんじゃないかと思っちゃうほどなんですよね。
次に、ナチス政権下のドイツをテーマにしたサイエンス・フィクション『NeuN(ノイン)』。
これは、ナチスが密かにヒトラーのDNAを受け継ぐ13人の子供たちを作り、「完成された人類」を作ろうとする、という話です。
強制収容所や地下組織など、実在した施設や活動がリアルに描かれながら、フィクションの設定を軸にして物語が展開していきます。
史実に大きなフィクションを入れることで、魅力的な物語になるのは、まさにマンガならでは!という感じです。
タイムスリップするマンガ
タイムスリップとマンガも相性がとてもいいです。
まず、ローマと現代日本が「銭湯」でつながっちゃうミラクル設定なのが『テルマエ・ロマエ』。日本の銭湯にタイムスリップした主人公・ルシウスが、設計技師として古代ローマの浴場に活かすという発想がおもしろく、ウォシュレットを体験する古代ローマ人や入浴後の一杯を楽しむローマ人の様子もなごみます。
古代ローマの浴場システムについて知れるという知識が増える喜びに加え、現代の知識や技術を古代ローマの技術でどう実現するかという「現代からの技術輸入の視点」が非常に興味深いです。日本人のことを「平たい顔族」と呼んでいる表現力も最高でした。
次に、フレンチの一流シェフが戦国時代にタイムスリップして織田信長付きの料理人として働くのが『信長のシェフ』です。
『テルマエ・ロマエ』と同様に、現代の技術が戦国時代に輸入されていますが、まだ存在しない調味料や野菜、存在はしているけど当時は食べる習慣がなかったものなどが紹介されていて、現代の食文化との違いが浮き彫りになっているところも魅力的です。
戦国時代は茶の湯が政治利用されていたように、主人公・ケンの料理も政治的な意味合いを含んで交渉として使われることが多く、「隠された意図のある料理」としての側面もおもしろいです。
歴史マンガでは織田信長が人気のようで、信長 x タイムスリップでいうと、『信長協奏曲』があります。現代だったらきっと有名インフルエンサーとしてフォロワーがたくさんいそうですね。
よければ、「織田信長のマンガ 10選」や「タイムスリップのマンガ 13選」もチェックしてみてください。
死刑執行人を描くマンガ
次に、死刑執行人をテーマにしたマンガが今来ているので、その紹介です。
フランス革命時代の処刑人の葛藤を描くのが『イノサン』。世間に忌み嫌われる処刑人一家の苦悩と責任感、処刑時の苦しみをやわらげる「ギロチン」の発明などが描かれています。
坂本眞一先生の美麗絵で描かれる衣装もゴージャス。さらにオペラのような語り口調で物語が進行するパートもあって展開の新しさに加え、革命時代の空気感を感じます。
続編『イノサン Rouge ルージュ』では、いよいよ歴史的大事件、国王ルイ16世の処刑へと物語が向かっていきます。
次に、山田浅右衛門という日本の処刑人が登場するのが『地獄楽』。不老不死の妙薬を賭けて戦うサバイバルバトルです。魚の顔をした坊主や目から舌が出てる巨人などが登場し、さまざまな宗教が混在したような島の世界観がぶっ飛んでいます。
PVが超かっこいいので、こちらもぜひチェックしてみてください。
戦時中の空気感を伝える名作たち
3人のアドルフをテーマにした『アドルフに告ぐ』は、手塚治虫先生による話題作です。
幼い時に親友同士だったドイツ人のアドルフとユダヤ人のアドルフが、時代の変化によって徐々に対立し、最後は生死を賭けた一騎打ちにまで追い込まれます。
戦争とはなんだったのかを問いかける不朽の名作であり、次世代に語り継ぎたい作品です。
また、『不死身の特攻兵 生キトシ生ケル者タチヘ』のような、「特攻隊」に選ばれた若者の目線から時代の空気感を伝えるものもあります。
『ペリリュー』は、太平洋戦争でのパラオ諸島ペリリュー島での戦いを描いたマンガです。
かわいらしい絵柄ですが、戦争の絶望感、大方針がないまま、意味がない戦闘を繰り返す狂気、ひたすら飢えと死の恐怖と戦うさまなど、生々しく描かれています。
切り口を変えることで新しく
ほかに、歴史マンガの切り口としてはまだまだあります。たとえば、「商業」をテーマにした『狼と香辛料』。
また、『阿・吽』は、日本人なら知らない人はいない、空海と最澄を主人公にしたマンガです。仏教の世界の描き方があまりに美しく、壮大であり、迫力があります。
他にも「怪異 x ミステリー x 歴史」という組み合わせもあります。まじないで怪異を収めていた平安時代を描くのが『応天の門』。
誰もが知る菅原道真が主人公となって、怪異の裏にある人の思惑を暴くミステリー要素が盛り込まれています。
真の魔物は人間の欲望。権力の中心にある藤原家との対立と、巨大権力に立ち向かう義の心が読者の気持ちを掴んで離しません!
歴史と切ない恋愛というのも相性がよさそうです。
切ない恋を描かせたら天下一品なのは、桜小路かのこ先生の『青楼オペラ』では、吉原の遊女となった武家出身の娘・朱音と高利貸しの若旦那・惣右助との身分違いの恋が描かれています。取り潰しになった朱音の家が再興になれば、身分のために惣右助とは別れねばならないんですね。
迷いながらも進む朱音の芯の強さと、朱音の家の再興を手伝うと決めた惣右助のイケメンっぷりにきゅんきゅんが止まりません。
時代の制約がある中での身分違いの恋。困難だからこそ燃え上がるものがありますよね!
歴史マンガの構成まとめ
ここまで見てきた歴史マンガの構成をまとめると、以下のようなポイントが挙げられます。
・舞台となる国はどこか:日本、アメリカ、ローマなど。
・どの時代を切り取るか:古代、平安時代、戦国時代、江戸時代、幕末、近現代など。
・誰にフォーカスするか:織田信長や新選組など歴史上の有名人に絡めることが多い。また、特攻隊や処刑人など特定の立場の人から語られる構図も。
・何にフォーカスするか:宗教、商業、文化、政治、戦略、時代背景、習慣、しきたり。
・かけ合わせ:歴史×食、歴史×恋愛、歴史×科学、歴史×タイムスリップ。
新たに歴史マンガを描きたい人は、これらを参考にまとめると分かりやすいかもしれません。
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